鹽竈[しおがま]神社に奉納された北前船の模型
※ガラスに映り込んでいる人物は鹽竈神社の神主さん
文化庁が認定する、日本遺産「荒海を越えた男たちの夢が紡いだ異空間 ~北前船寄港地・船主集落~」に追加認定された村上市。構成文化財が多く残る湊町・塩谷を、野澤道雄さん(塩谷活性化推進協議会)のガイドで巡る後編です。
野澤道雄さん
前編では次の場所を巡りました。
①稲荷山(番所山)
②瀬賀惣一郎商店
寄り道〈1〉銀月堂
[北前船の寄港地を訪ねて]ガイドと巡る湊町・塩谷さんぽ【前編】
http://www.sake3.com/activity/705
今回は、③鹽竈神社~寄り道〈2〉元菓子屋~④野澤食品工業を訪ねた様子を紹介します。
(取材日:2025年4月下旬)
銀月堂を出て次に向かったのは、塩谷集落の氏神、③鹽竈神社です。
塩谷集落を南北に貫くメインストリートを、北に向かって進みます。
塩谷のまちが、江戸中期の集団移転によって計画的につくられたものだということは前編でも書きました。このメインストリートと平行するように、浜側と田んぼ側に一本ずつ通りがあり、その間をいくつもの小路がつないでいます。
浜側の通り
日本海に面した浜側の通りは、主に漁業に従事する人たちが使い、北前船が運んできた荷物は、荒川の支流・堀川を利用して田んぼ側の通りに下ろしました。
田んぼ側の通り
そのため、田んぼ側の通りには今でも大きな土蔵や倉が残っています。塩谷のまちは、計画的に、そして合理的につくられたまちなのだと改めて感じました。
塩谷のまちの中心に鎮座する鹽竈神社は、1173(承安3)年に創建され、塩谷の集落移転に伴って現在地へ移りました。主祭神は塩土老翁命[しおつちおじのみこと]で、潮流を司る神・航海の神、また製塩方法を伝えた神といわれています。
鹽竈神社[しおがま-じんじゃ]
https://www.sake3.com/spot/327
神主さんの許可を得て拝殿へ上がらせてもらうと、中には集落の人たちが奉納した北前船の模型(一番上の写真)や船の設計図(上の写真上部)らしきものが納められていました。北前船に関わる事業や漁業などでにぎわった塩谷のまち。海の安全を願い、鹽竈神社の祭神に祈りをささげてきたのですね。
ここでちょっと余談。
神社境内の池ではカメが飼われています。塩谷では、カメは氏神の使いといわれ、とても大切に扱われているとのこと。また、カメそのものだけでなく、『塩谷ガイドブック』(発行者:塩谷区)に「(前略)祝言の着物や帯に亀甲模様のついたもの、べっ甲のかんざしなどは使いません。亀の形のお菓子やおもちゃなどは神社に納めます。(後略)」とあるように、カメをモチーフにしたものも大切にしています。塩谷で暮らす人たちのカメに対する畏敬の念が感じられます。
続いて、寄り道〈2〉元菓子屋へ。
1839(天保10)年創業の元菓子屋[もとがしや]は、主に冠婚葬祭等の式菓子を手掛ける老舗和菓子屋。主屋兼店舗は、塩谷で一番新しい町屋で1960(昭和35)年頃に建てられました。
通り土間から見える漆塗りの梁[はり]には、荒々しい鑿[のみ]の跡が残っていて、当時の職人の息づかいが聞こえてきそう。町屋見学もできるので、ご覧になりたい方は店の人にひと声掛けてください。
注文のあった式菓子に加え、土・日曜日は「おやつの日」としてお菓子の店頭販売も行っています。並ぶのは、プリンやシフォンケーキ、わらび餅といったワンコインで手に入る、気取りのないものばかり。手に取りやすい値段でも、味や見た目にはこだわっています。
まち歩きの休憩に、シフォンケーキ〈バニラ〉(200円・税込)とほうじ茶プリン(320円・税込)をいただきました。シフォンケーキはふわふわで、細かな気泡がシュンと溶け、優しい甘さが広がります。ほうじ茶プリンは、ぎりぎり形を保っているような滑らかな舌触りと、ほうじ茶の香りにうっとりしました。
さて、塩谷さんぽの最後は④野澤食品工業です。
※野澤道雄さんのお宅
店舗兼主屋は、瀬賀惣一郎商店と同じく国の登録有形文化財(建造物)に登録されています。間口は11間(約20メートル)、奥行きは47間(約85.5メートル)もある、塩谷随一の大きさを誇る町屋です。江戸時代には船宿や廻船問屋、造り酒屋などを営み、庄屋も任されていた野澤家。戦後からしょうゆ・みそを造るようになり、現在に至ります。
主屋に入る前に、まずは軒を見てごらんと野澤さん。張り出した屋根の下に出桁[だしげた]を渡し、それを腕木[うでぎ]が支えるこの構造を船枻[せがい]造りというそうです。大きな町屋の、大きな下屋根を支えるための構造です。
画像提供:野澤道雄
こちらも塩谷町屋の特徴の一つ、ささら戸。格子と障子(またはガラス)が二重になった引き戸で、夏は障子を外して格子だけにし、海からの風を室内に通すことができます。茶の間と座敷の間に、ささら戸が使われるのは珍しいことなのだとか。細い格子の一本一本にまで漆が塗られています。
野澤食品工業に残る古い御札。どちらも左下に「佛(仏)海上人」と書かれています。佛海上人は、日本最後の即身仏(1903(明治36)年入寂)となった観音寺の住職です。神社や寺の御札ではなく、佛海上人(お坊さん)の名前で書かれた御札は珍しいのだそう。
観音寺
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主屋見学の後は、野澤食品工業のしょうゆ・みそを造る製造所内も見学させていただくことに。
ここからの案内は、野澤食品工業 取締役・野澤陽祐[ようすけ]さんが担当してくれます。陽祐さんは、ここまでガイドを務めてくれた野澤道雄さんの息子で、定番のしょうゆ・みそ造りから、新ブランド・NOZAWAの「二年熟成醤油 ふたなつ」(新潟ガストロノミーアワード2023 特産品部門30受賞)や「ワイン樽熟成味噌 ふたたび」を手掛けるなど、新製品開発にも意欲的に取り組んでいます。
野澤食品工業 公式サイト
https://www.nozawa-shokuhin.co.jp/
※外部リンク
NOZAWA
https://www.nozawa-shokuhin.com/
※外部リンク
野澤食品工業の製造所見学は、「見学のみコース」(無料)と「味わいコース」(1人500円/高校生以下無料)の2種類があります。申し込みは、電話または公式サイトの「製造所見学 お申し込みフォーム」から受け付けています。
※当日でも見学受け入れが可能な場合もありますが、作業中断が難しい時はお断りします
野澤食品工業>製造所見学 お申し込みフォーム
https://www.nozawa-shokuhin.co.jp/kengaku/
※外部リンク
今回は、製造所見学に加えしょうゆの製造過程も味見できる「味わいコース」を申し込みました。
まずは製造所内の見学から。主屋入り口から続く通り土間は、そのまま製造所の最深部まで続きます。通路の両側には、高さが2メートル以上もある大きなしょうゆの木桶が並んでいます。
高い天井には何本も梁が渡され、大きな屋根を支えています。木が黒ずんで見えるのは、しょうゆやみそを発酵させる菌(酵母菌や乳酸菌など)の仕業。いわゆる「蔵付きの菌」と呼ばれるものです。
こちらは、しょうゆを搾る際に使う槽[ふね]という装置。
※中央には「鶴聲」[かくせい]書かれています。かつて塩谷で造り酒屋を営んでいた野澤広市商店から譲り受けたもの
中に布で包んだもろみ(搾る前のしょうゆのもと)を重ねて入れ、上から圧をかけて、しょうゆと搾りかすに分けます。
槽の中に残っていた搾りかすを試食させてもらいました。溶け切れなかった大豆や小麦の皮なのですが、ほんのりとしょうゆの味がしておいしかったです。搾りかすを食べる機会も、そのかすを食べて「おいしい」と感じることも珍しいことだそう。大概の搾りかすは味がしないのだとか。
こちらは、大豆を煮る蒸煮缶[じょうしゃかん]と呼ばれる装置です。今から60年くらい前に造られた鉄製の大きな釜で、大豆約500キログラムを一度に蒸し上げることができます。
続いて、製造所の最深部から外へ出て、田んぼ側の通りへ。北前船が行き来していた江戸後期~明治期には堀川が流れていて、当時扱っていた商品・製品等はここから廻船に積み込み、荒川河口に停泊している北前船まで運んだそうです。
再び製造所内に戻り、発酵中のしょうゆを見学。見学が終わったら、いよいよしょうゆの製造過程の味見です。
小さな銀色のトレイに、左から順に仕込みから2年目→1年目→約半年と並んでいます。
※左の紙コップには味覚をリセットするための水が入っています
まずは、仕込みから半年のものをいただきます。まだ原材料の大豆や小麦の粒がはっきり見えます。味は当然しょっぱいのですが、大豆の甘みや炒った小麦の香ばしさも感じられました。
続いて、仕込んで1年が経ったものをいただきます。大豆の形は見て取れるものの、色合いは深く濃くなり、だいぶしょうゆらしさが出てきています。
最後に、仕込んで2年が経過したもの。原材料は溶けて混ざり合い、色はさらに深い赤褐色に。香ばしい匂いやまろやかな塩味はまさにしょうゆです。
原材料の大豆・小麦・塩が時間の経過とともに発酵によって変化し、徐々にしょうゆになっていく過程を、見るだけでなく舌で感じられたことは、とてもいい経験になりました。
ガイドと巡る湊町・塩谷さんぽ【後編】
補足&まとめ
●塩谷の観光ガイドは、塩谷活性化推進協議会(野澤食品工業内・TEL 0254-66-5507)へお申し込みください。
●ガイド申し込みは、希望日の1週間前までにお願いします。ガイド料金はお一人様500円・所要時間は2時間程度です。
●元菓子屋の「おやつの日」は、毎週土・日曜日に実施されます。急な休みなどは公式Instagram(下記参照)でご確認ください。
●野澤食品工業の製造所見学「見学のみコース」(無料)と「味わいコース」(1人500円)は、どちらも事前申込が必要です。公式サイトの申し込みフォーム(上記参照)、または電話でお申し込みください。
●まち歩きは、履きなれた靴(スニーカー等)がオススメです。
北前船の往来に伴って発展してきた湊町・塩谷。これまで何度も足を運んだ場所なのに、ガイドの野澤さんと一緒に歩いたことで、これまで気にも留めなかったような通りや小路、町屋の造りにも歴史があり、塩谷独自の文化があると気付かされました。
日本遺産に追加認定されたことで、これからさらに多くの方が塩谷のまちに興味を持ってくれることと思います。興味・関心を持った方は、どうぞ実際に訪れて往時の雰囲気を感じてください。その際には、ぜひ観光ガイドも利用して、より深く塩谷について知っていただければうれしいです。
鹽竈神社[しおがま-じんじゃ]
https://www.sake3.com/spot/327
所在地 村上市塩谷1194
※拝殿内は通常開放されていません
元菓子屋[もとがしや]
所在地 村上市塩谷1302
電話番号 0254-66-5551
営業日時 「おやつの日」土・日曜日9:00~18:00
※なくなり次第閉店する場合があります
※「おやつの日」以外でも町屋見学は可能です
公式Instagram
https://www.instagram.com/motogashiya/
野澤食品工業
https://www.sake3.com/spot/109
所在地 村上市塩谷1227
電話番号 0254-66-5507
営業時間 8:00~18:30
定休日 不定休
駐車場 2台
公式サイト
https://www.nozawa-shokuhin.co.jp/