しな布は、いつのころから織られるようになったのでしょう 。その起源ははっきりしませんが、平安時代に編さんされた延喜式の中に、貢ぎ物として「信濃(しな)布」と記されていることから、当時にはすでに織られていたようです。
日本では昔から、山野に自生する科(しな)や楮(こうぞ)、葛(くず)などの草木から繊維を取り出し、糸をよって織り上げ、衣装や装飾品として利用してきました。しな布は、シナノキ科シナノキ属のシナノキ、オオバボダイジュ、ノジリボダイジュの樹皮を利用して織られます。藤布や楮布、麻布などの古代織物(原始織物)の一つとして生産されていましたが、木綿や絹の普及、戦後の化学繊維の大量生産に押され、今では産地からも姿を消しつつあります。
現在、しな布は山形県鶴岡市関川と新潟県村上市雷(いかづち)、そして山熊田で織られています。平成17(2005)年9月には、上記の産地で織られているしな布が経済産業省の「伝統的工芸品」に指定されました。「羽越しな布」の名称は、羽前(山形県庄内地方)の【羽】と越後(新潟県)の【越】を取って名づけられました。
山深い産地で、厳しい冬期間の貴重な収入源として受け継がれてきた羽越しな布。その技術・技法は連綿と受け継がれ、現在も多くの人を魅了し続けています。