新潟県村上市は、城下町~であったり、鮭のまち~と言われたりもしますが、北限の茶処~という呼び名もあるのです。商業的な茶産地の北限(日本海側)で、400余年の歴史がある村上市。茶舗の中には、自社製品を提供する喫茶スペースを設けているところもあります。
村上茶について
https://www.sake3.com/speciality/tea
今回紹介するのは、冨士美園のカフェ「茶寮カネエイ」。ここでは冨士美園が手掛ける各種お茶が味わえるだけでなく、自身で“お茶をいれる”体験も楽しめます。店の奥に用意された特別な空間で、記憶に残る喫茶体験をしてきました。
(取材日:2024年2月20日)
明治元(1868)年創業の冨士美園[ふじみえん]。栽培から製造販売までを一貫して行う茶舗で、6代目・飯島剛志さんは明治末期以降に途絶えていた村上茶の紅茶復活に尽力し、創業150周年の節目には高級ボトリングティーを発表、昨年は新潟食料農業大学(胎内市)が開発したMELISSA*村上茶ハーブティーの協力・監修を務めるなど、さまざまな取り組みを意欲的に行っています。
*メリッサ(レモンバームの別名)
冨士美園
https://www.sake3.com/spot/3796
MELISSA 村上茶ハーブティー誕生
https://www.sake3.com/murakamicha/86
(公開日:2023年9月25日)
その冨士美園が、店舗奥にあった茶小屋(製茶工場)をリノベーションし、2019年秋にオープンさせたのが茶寮カネエイです。コロナ禍であっても感度の高い人たちを中心に話題となり、さまざまなメディアで取り上げられました。
そんな話題のカフェなので、その魅力をできるだけこの記事に詰め込んで紹介したいと思います!!
冨士美園のお茶づくりやカフェのあれこれ(リノベーションの概要や使用している茶道具類、お茶のいれ方等々)を教えてくれたのは、茶寮カネエイの女将・飯島渚さんです。
さて、茶寮カネエイは冨士美園の中にあるカフェということで、その道程も紹介します。
冨士美園の商品がずらりと並ぶ店の奥、のれんが掛かった扉が茶寮カネエイへの入り口です。冨士美園の店舗スタッフにひと声掛けてから中へ進みましょう。
扉の先には長い廊下。町屋の特徴の一つ、通り土間を改装しています。
廊下の左手側には、これも町屋の特徴である明かり取りの中庭があります。
突き当りを左に折れると入り口があります。
扉の先には、このような洗練された空間が待っています。
前述しましたが、茶寮カネエイは大正初期に建てられた茶小屋(製茶工場)をリノベーションしたカフェです。茶小屋だったスペースの1/3をカフェにし、元々土間だった床には2階部分の床板を敷いています。
そのため天井は梁がむき出し。さして広くない店内ですが、天井が高いため圧迫感はありません。ちなみに梁や板壁が黒いのは、製茶の工程で火を使っていたためで、長きにわたって使用されてきたことの証左です。
店内にはテーブル席(2人掛け×2)とカウンター(4席)があり、カウンターには、選[い]り葉板(茶の葉と茎を選別するのに使う黒い板)がはめ込まれています。
茶小屋で使われていた古い部材を生かすとともに、村上市産いわふね杉を用いたり、カフェで使用している燕市の鎚起銅器[ついきどうき]のやかんや急須に合わせて銅板を張ったりと、店内は村上市産・新潟県産のもので構成され、自然な一体感が醸成されています。
さて、店内の紹介はこれくらいで。
席に着いて、お品書きを見ていきましょう。
座って最初に提供される水ですが、こちらは大洋酒造の仕込み水とのこと。酒蔵の命ともいえるこの水は、超軟水でお茶をいれるのにも適しているそうです。大洋酒造の協力の下、お客様に出す水・お茶にはすべてこの水が使われています。
大洋酒造 和水蔵(なごみぐら)
https://www.sake3.com/spot/42
続いて、お品書きを拝見します。
※取材当時のお品書きです
お品書きには定番の①~⑨*までの「お茶とお菓子セット」の他、甘味とコシヒカリ玄米茶のセットや地酒、月替わりのお茶・甘味が載っています。
*⑨手もみ茶は限定品のため、なくなり次第終了です
(お茶とお菓子セットを選んだ場合)続いて、お菓子を選びます。目の前に運ばれてきた菓子器(村上木彫堆朱の朱溜塗)には、その日の朝に買い求めた和洋菓子が並んでいました。写真右上から時計回りに「おらんだカステラ」、上生菓子「咲き分け」(ともに酒田屋)、上生菓子「水仙」(早撰堂)、ロールケーキ(村恭)。この中から一つ選んで、お茶と一緒にいただきます。
御菓子司 酒田屋
https://www.sake3.com/spot/135
早撰堂
https://www.sake3.com/spot/301
村恭 MURAKYO 神林店
https://www.sake3.com/spot/1303
今回は①煎茶 New&Classic×上生菓子「咲き分け」、④ひき茶(村上抹茶)×おらんだカステラという組み合わせをいただくことにしました。
まずは、①煎茶 New&Classicから。
ホット/950円・税込
使用している茶葉は、ふくみどりと在来種。Newがふくみどり、Classicが在来種を意味しています。在来種とは、村上特有の気候風土に適応してきた茶樹の葉で、ふくみどりと合わせることで「ほのかに花のような香り」と「すっきりとした涼しい甘みと青みの少ない味わい」(お品書きより)が楽しめます。
カネエイでは、1煎目と2煎目は店の方が、3煎目からはお客様自身がお茶をいれるスタイルで、煎が進むごとに変化していくお茶の味が楽しめます。
1煎目は、低めの湯温(約70℃)で時間をかけて、じっくりと抽出。茶葉をゆっくり開かせ、豊かな甘みを引き出します。
2煎目は、先程選んだお菓子と一緒にいただきます。湯温は一煎目より高くし、注ぐまでの時間も短くして提供されます。1煎目に比べると、甘みに加えて渋みも感じられるようになり、お菓子の甘さが際立ちます。
いよいよ3煎目。店の方に頼んでお湯をもらい、自分で急須に注ぎます。
茶葉がしっかりと開いているのが分かります。手元に置かれた砂時計や店の方からアドバイスをもらい、好みのタイミングで注ぎましょう。3煎目は、甘みよりも渋み・苦みが感じられました。
次に④ひき茶(村上抹茶)をいただきます。
ホット/990円・税込
ひき茶とは、村上産の玉露とかぶせ茶(摘み取り前の茶樹に日よけを被せて育てたもの)を挽いた抹茶仕様のお茶です。先にお菓子が提供され、その後、店の方が抹茶茶碗と茶せんでお茶を点ててくれます。
村上牛(!)やナッツ、ドライフルーツが入った「おらんだカステラ」は食べ応えがあり、口当たりまろやかでスッキリとした苦みのひき茶とよく合います。
村上牛について
https://www.sake3.com/gourmet/beef
ひき茶の2煎目は、岩船産コシヒカリ玄米茶です。一つのセットで2種類のお茶が楽しめるなんて、ちょっと得した気分。玄米茶特有の素朴なうま味と香ばしさにホッとします。
3煎目は、先程の玄米茶の急須に、自分でお湯を注いでいただきます。ちなみに急須のお茶は、3煎目くらいまで変わっていくお茶の味が楽しめるとのこと。湯温や時間で変化していくお茶の味、じっくり楽しみたいですね。
最近は、ペットボトルやティーバッグのお茶を飲むことが多く、茶葉のお茶をいれる機会が減っていました。簡単に、手軽に味わえるのはとてもいいこと。でも、その時の気分で茶葉を選び、器やお湯を用意して、お茶をいれる行為自体を楽しむのもいいものですね。茶寮カネエイでの時間は、そんな気持ちを思い出させてくれました。
私のように気分が盛り上がった人は、店内で販売している茶道具(玉川堂(燕市)、硝子工房クラフト・ユー(柏崎市)、村上木彫堆朱のデザートスプーン等)や冨士美園の店頭で販売している多彩な茶葉を買い求め、自宅でも充実したお茶の時間をお楽しみください。
最後に、茶寮カネエイで過ごした時間を動画でもご覧ください。
茶寮カネエイ
補足&まとめ
●茶寮カネエイは、冨士美園店内に設けられたカフェで、大正時代の茶小屋(製茶工場)をリノベーションしています。古い部材を生かし、茶道具や器などには新潟県産・村上市産のものが使われています。
●予約がなくても利用できますが、混雑時は予約のお客様が優先されます。
●(お茶とお菓子セットの場合)1・2煎目は店の方が給仕してくれます。3煎目以降は自分でお茶をいれて楽しみます。
●(ホットかアイスが選べるメニューの場合)アイスを注文した場合、2煎目以降ホットへの変更が可能です。
※ホットからアイスへの変更はできません
冨士美園
https://www.sake3.com/spot/3796
所在地 村上市長井町4-19
電話番号 0254-52-2716
営業時間 8:30~18:30
定休日 元日
駐車場 4台
公式サイト
https://www.fujimien.jp/
茶寮カネエイ
営業時間 11:00~17:00(Lo 16:30)
定休日 木・金曜日、祝日
※予約の際は冨士美園へおかけください