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むかしの「昔のことせ!」 むかしの「昔のことせ!」

 

このコンテンツは
『むらかみ商工会議所ニュース』で連載していた
「昔のことせ!ー村上むかし語りーを再掲です。
発行:村上商工会議所

 

著者は村上市の郷土史研究家
大場喜代司さん(故人)です。

 

石田光和さんによる
イラストとともにお楽しみください。

 

2025/10/15

057 次太郎騒動(11)

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イラスト:石田 光和エムプリント

 

岡雄左衛門の手代・大塚万右衛門は、500の手勢を引き具して*高畑村に到着した。そこで、村松浜にはいまだ暴徒の残りがいることを知る。さればと大塚は、「500を3隊に分けて、1隊は浜道、1隊は松原道、もう1隊は本道に分かれて進め。こうすれば暴徒も逃げ道を失うじゃろう。よし、されば進撃!」と采配を振り下ろすと、手勢は勇気奮発、「おう!」と喚声を上げ、3隊に分かれて里道を駆け出した。村松浜は、高畑の南西で中間地点に築地村があり、何程の距離でもない。片や暴徒は指揮系統もなにもない。逃げ失せた者もいたが、村内をうろうろしている者もいた。そこへ鎮圧隊が三方からどっとなだれ込む。
*引き連れる、伴う

 

たちまち、あちらこちらで3人、5人と捕えられ、都合10数名が捕縛されてしまった。しかし、その中に首謀者らはいなく、雑魚ばかりであった。

こは*首謀者たる次太郎はじめ、重立ら**はいずれにいたか。そうだ、かの次太郎と上鍛冶村の与吉らは、次々と手下が捕えられているのに荒井浜の庄屋・忠右衛門を強請[ゆす]っていたというからめでたい話である。いわく、「放出する米は五百俵あるいは千俵。そして、その分は今ここで金子[きんす]に替えてくれ。否か、否とあれば実力でも奪うがどうだ」と要求された忠右衛門は、困惑と苦渋の色を眉に表わし、頬を陰らせて、「そう言われてもねんし、そのような大金は持ち合わせがない。金策してくるからそれまで待ってくたせ。」そう言って、裏では小者を大塚のもとに走らせた。
*(疑問・感動の気持ちを表すときに用いる古語)これは
**集団の中で主要な人物

 

やがてその使いが立ち帰る。村役人は触れを出して村人を集め、忠右衛門の屋敷を取り囲もうとする。そうした様子を察知した次太郎は、眉を寄せて、「すわ手が回ったか、こうしてはいられぬ」と思い、脱兎になって逃走する。胎内川の大出の渡しを越え、古舘を経て、山中に逃げ込もうとしていた。ところが、その次太郎はたちまち発見され、大勢の百姓は口々に、「それ追いかけろ。大出村にも知らせよ」と道幅いっぱいになって追いかける。あるいは報せを受けた大出村もまた百姓らで包囲網をつくる。次太郎は、「ここで捕まったら百年目だわ」とその追手をくらますために柳の木立のやぶ陰に潜んだ。

 

突然、次太郎の姿が見えなくなったものだから追手はうろたえ、「やや、どこへ行った。どこさ隠れやがった」といささか狼狽[ろうばい]したが、次太郎が潜んでいるところを見ていた子どもらがいて、大声で、「ここにいるどー! ここだぞー!」と叫んだ。泡を食ったのは次太郎だ。「ええい、くそがきが」と言いながらそのやぶを脱し、必死になって古舘村を目指した。やがて行く手に寺の屋根が見えた。常光寺という寺だ。次太郎はそこへ飛び込む。

 

大場喜代司
『むらかみ商工会議所ニュース』
(2012年9月号掲載)村上市史異聞 より

 

2025/09/15

056 次太郎騒動(10)

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イラスト:石田 光和エムプリント

 

荒井浜の庄次郎が襲われたときのことである。本宅や土蔵が次々と破壊されたが、今一つ最も重要な蔵が発見されていない。そこで暴徒に加わっていた村上庄内町の大工・佐太郎は、実直な職人の容貌を険悪に変え、「俺が普請した穴蔵こそが金蔵なのだわ」そう叫びながら、その穴蔵目がけて突入する。庄次郎にすれば、まさかかつて雇った大工が暴徒になっているとは露知らず、全て略奪されてしまった。

 

しかし、ここに至るとさすがの暴徒も疲れがでた。20人、30人とごそごそと落伍者[らくごしゃ]が相次ぎ、総勢で4~500人程になっていた。これで村松浜へ押し寄せるのだが、関係する藩も黙し難い。まず白川藩預かりの出雲崎陣屋からは、元締役・岡雄左衛門と手代・大塚万右衛門の両名が家来を引き具し*中条へ出張る**。
*引き連れる、伴う
**戦いのために他の場所へ出向く

そして、村々に檄[げき]を飛ばして農兵を募る。これに応じた急造の農兵が千人余。それらを前にした岡は、「一揆の暴徒と間違われぬよう、髪の結び目に白紙を付けよ」と令し、500人は岡、500人は大塚の手兵として、「暴徒奴らが来ぬうちに、逆か寄せに寄せて搦[から]め捕れ。手向かいいたさば多勢で取り巻き、叩き伏せよ」と厳しく申し付けていたところ、高橋村の庄屋・源兵衛からの注進で、「奴らは村松浜の多七を襲い、少しばっか打壊しましたが、ここに至って逃げ失せる者もあります。なにとぞ追撃して捕まえてくだせ。」よし、さらばと岡は勇躍、「まいるぞ、ものども。ぬかるなよ」と下知すると、500のにわか農兵は、昴奮[こうふん]に膝頭を震わせ、引き攣[つ]る唇を奥歯でかみながら、「えいおう!」と鯨波[とき]を上げ、胴震いを止めると、小走りに走り出した。

普段、手にするものは鍬[くわ]や鎌で農作業しか知らぬ者ばかりだが、陣頭指揮は侍だから素晴らしい勢いで、真っ黒になって駈[か]ける。そこへ折よく暴徒の列から外れた少人数に行き逢った。

 

岡は、「それ奴等だ! 引っ捕らえろ!」。その下知にどうと周りを囲むと、暴徒の1人がやみくもに脇差しを振り回す。むろん、にわか農兵は手を束[つか]ねている。岡は、「よし、俺が打ちこらしてやる」と手にした六尺の鉄棒をごうと振る。それも恐れず、かの者はめったやたらに脇差しを振った。それを岡は、二三度空を泳がせて、「えい!」とその脇差しを目がけて打ち下ろすと、青白い閃光が飛び、鉄臭を残して脇差しが地面に転がった。

 

「それっ、ものども縄をかけよ!」その号令を待つまでもなく、農兵はうわっと群がるハチのようになって、高手小手[たかてこて]*に縛り上げてしまった。その他はほとんど逃げ散ったが、1人だけが捕らえられ、都合2人の捕縛者となった。
*人の両手を後ろに回し、首~ひじ~手首に縄をかけて厳重に縛り上げること

 

大場喜代司
『むらかみ商工会議所ニュース』
(2012年8月号掲載)村上市史異聞 より

 

2025/08/15

055 次太郎騒動(9)

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イラスト:石田 光和エムプリント

 

村上藩相手の交渉は次太郎らの思いどおりになった。なすすべもなくただ傍観の体の藩兵を尻目に、次太郎らはその下道を通り桃崎の家並にかかると、大勢の村人足が酒飯を仕度して接待する。そしてまた、次の目標である荒井浜までの浜道を率先して案内する。そのとき桃崎村が放出の約束をした米は1,003俵で、さらに3カ月間米の津出はしない、というものであった。

 

時は暮れ六ツ(午後6時頃)、どこかの寺の鐘が聞こえてきた。桃崎村とすれば、暴動から逃れたい一心で次太郎らの要求を呑んだものだが、村上藩とすればまさに屈辱そのものである。どだい一揆そのものが天下に対する非道であり、公儀に対する反逆である。にもかかわらずだ。これでは法度の存在も無に等しいということになり、屈辱なんてものではない。それをはるかに上回る行為で、藩主には公儀からきつい沙汰があってしかるべきである。

 

ただ間が良かったか悪かったか、藩主・内藤信敦[のぶあつ]は、このとき幕府の寺社奉行の任にあったため江戸定府で、村上にはいなかった。従って領内の統轄[とうかつ]は家老にあった。また、村上城下も食糧難に陥り、歳の暮れには721人もの飢人が出たほどである。

 

ところで、荒井浜に向かった次太郎は、かねて知り合いの与八郎宅の前に出張[でば]った。そこで与八郎はもとより、女房も母親も血相を変えて唇をわななかせ、「米の五百俵や千俵ならば、4~5日中に積みそろえるで穏やかにしてけろ」そう言うし、与八郎とも懇意にしていた次太郎であるから、さればと与八郎宅をあとにして庄次郎という家屋を襲った。そこでの破壊略奪、狼藉がものすごい。日頃、庄次郎はよほどの強欲だったか、民衆から恨みを買っていたのか。群衆は竜巻のように襲いかかり、戸障子を叩き砕き、掛け矢で土蔵の扉を破ると、まるで血に飢えた群狼のようにどっと中に入り、衣類といわず膳部[ぜんぶ]といわず、陶器やあらゆる什物[じゅうもつ]や骨董品、また金銭までも強奪し、残余の衣類などは火を付けて燃やしてしまった。その数百余、また奪った金銭は450両と銭204貫に及んだというから落花狼藉も極みに達した。

 

そして、群狼のごとき一揆衆は勝ち誇ったかのように傲然[ごうぜん]と肩をそびやかし、醜悪な顔を酒と松明で赤くさせ、濁った目をぎらつかせ、黄色い歯をむきだして、わめきながら村中を歩行する。これに脅えない者はいるわけがない。子どもから女、老人、病人まで声もなく蒼然として顔を寄せ、雨戸を締めて灯を消し、まるで死人の家のようにしていた。なかでも肝をつぶし、魂も消して震え上がったのは、庄次郎に続いた身代の彦七、伝四郎、与五兵衛、治郎左衛門であった。彼らは鳩首[きゅうしゅ]すると、「ともかくひでぇ奴らだ。あのぼっ壊すようは、たまったもんでねえ。次は俺たちが狙われる」「んだでば、そうなる前にまんず4人で502斗の米だばどうだや。これで納得すてもらうべ」。

 

大場喜代司
『むらかみ商工会議所ニュース』
(2012年7月号掲載)村上市史異聞 より

 

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