日本酒の原型である「どぶろく」。
炊いた米に麹を加え、発酵させることで造られる濁り酒である。昔は各家庭で一般的に造られていたが、明治31(1898)年に酒造税(のちの酒税)が制定されたため、自家醸造は全て禁止された。
しかし、家の中で簡単に造れるということもあり、規制が行き届かず、山村では各家々で密造酒として造られていたのが実状で、突然、税務署員の訪問により家の捜索が行われ、酒甕が見つかって検挙されるなど、いろいろなエピソードが語り継がれている。
近年、行政構造改革により特別区域が設けられ、通称・どぶろく特区内では醸造や販売が許されるようになった。特区内での製造の許可要件は、農業者や飲食業経営者となっており、この地域では平成17(2005)年に高根地区(旧朝日村)の廃校舎教室において製造が始まった。
ここで製造されているどぶろくは、山の斜面に作られた棚田で育つ酒米・たかね錦に、清酒酵母901号を加え、日本の滝百選の鈴ヶ滝を源とする高根川の伏流水で仕込まれている。
1回の仕込みは40ℓ。仕込水25ℓに麹7kg、酵母10gを入れたタンクに、85%に精米し、蒸した掛け米で仕込む。2週間ほど発酵させると「どぶろく雲上(くものうえ)」として出来上がる。
季節や温度管理により、出来上がりの味わいが毎回微妙に変わるのはご愛嬌。また、火入れをせず、酵母が生きたままの状態のため、日が経つごとにも変化がある。それも、どぶろくの面白さだ。
風土が醸すどぶろくは、地域食材とともにどぶろくの故郷で味わうと、より一層おいしく感じられるだろう。