新潟県村上市が誇る伝統的工芸品(経済産業大臣指定伝統的工芸品)の一つ、村上木彫堆朱。江戸中期に確立された技術は、木地師・彫師・塗師といった職人たちの手で守られ、現代まで受け継がれてきました。
村上木彫堆朱について
https://www.sake3.com/speciality/tsuishu9
塗師だった父から学び、その技術や知識を深めて、ついには村上木彫堆朱 塗り部門の伝統工芸士に認定された池野律子さん。父から継いだ店舗兼工房には、池野さんから発せられる創作の喜びが詰まっていました。
(取材日:2023年12月14日)
村上木彫堆朱で初の女性伝統工芸士
池野漆工芸の池野律子さん
池野漆工芸は、律子さんの父・陽一さんが自身の父親(律子さんの祖父で、同じく村上木彫堆朱の塗師)から独立して構えた店。塗師として働く両親を見て育った律子さんは、学校卒業後、ごく自然に家業を手伝うようになります。父に師事して塗りを学び始め、子育てなどで中断する期間もありつつ、再び村上木彫堆朱の塗師として戻ってきました。
店内に掲げられた律子さんの伝統工芸士認定書
父亡き後、母とともに店を切り盛りしていた律子さんのもとに、古い友人からおあつらえの注文が入ります。頼まれたのはパーティーなどで使用するクラッチバッグ。バッグ本体に施す彫りや塗りはもちろん、口金や内装の細部に至るまでを友人と話し合い、時間をかけて納得のいくものを作り上げました。「この依頼がきっかけで、自分の仕事に自信と喜びが感じられるようになった」と律子さんは話します。
勢いを得た律子さんは、周囲の勧めもあって伝統工芸士の認定試験を受け、見事合格。2009年に村上木彫堆朱で初の女性伝統工芸士になりました。その後も、村上木彫堆朱の女性職人で結成された「華からくさの会」の主宰を務め、全国の女性伝統工芸士を紹介する展示会などにも積極的に参加、村上木彫堆朱の魅力を伝えています。
工房見学 ~中研ぎ~
村上木彫堆朱の「堆」には積み重ねるという意味があり、その字に違わず、幾度も漆を塗り重ねることにより、堅固で奥深い艶を生み出します。今回は塗りの工程の一つ、中研ぎ[なかとぎ]*の様子を見せてもらいました。
*中塗り研ぎ[なかぬりとぎ]とも
(左)工程により使い分ける合砥[あわせと]
(右)指の感触を頼りに余分な錆漆を研ぎ落とす
村上木彫堆朱は、製品によっても異なりますが、塗りだけでも10以上の工程があり、漆を塗っては乾燥させ、その後に研ぐを繰り返します。中研ぎは、これまでの作業でついた傷等に錆漆[さびうるし]*を付けて乾燥させたのち、全体を平らかにするため砥石で研いでいく工程です。
*漆に砥の粉[とのこ]を混ぜたもの
指先ほどの小さな砥石を持ち、小箱の表面をシュリッシュリッと研いでいきます。何でもないような作業に見えますが、細かい彫り一つ一つに砥石を当て、指の腹で感触を確かめながら、少しずつ凹凸を整えているのです。
2024年の干支・辰[たつ]が彫られた総彫りの小箱
途中、研ぎ終えた部分に触らせてもらいましたが、その違いはごくわずかにしか感じられません。目に見えない凹凸を探り、少しずつ研いで整えて、また次の塗りへ。村上木彫堆朱は、こうした手間と時間によって美しい漆をまとい、その後は私たちが使うことで艶が出て、さらに輝く、時を越えて愛してゆけるものなのです。
追記:制作中だった小箱(龍の図 堆朱小箱)は、第22回 関東伝統工芸士会作品コンクールに出品され、関東伝統工芸士会長賞を受賞しました。
池野律子さんの仕事
大きな写真上から
手鏡(55,000円・税込)
香合(220,000円・税込)
帯留め(6,600円・税込)
スカーフ留め(7,700円・税込)
バレッタ(16,500円・税込)
「桜の文様が好き」と話す池野さん。父の代から彫りを依頼している富樫春男さん(伝統工芸士)にイメージを伝え、どのような彫りを施すか、毎回話し合って図柄を決めています。手鏡・香合は、木地全体に彫りを入れる「総彫り」で、香合の内側は金磨塗[きんまぬり]で華やかに仕上げています。桜花の球(おしべ)まで表現した繊細な彫り・塗りはじつに見事です。
ネックレス・チョーカー
塗り(4,400円~・税込)
彫り(5,500円~・税込)
池野さんが得意とするアクセサリー。ペンダントトップには、縁起の良い麻の葉などの地紋や椿・桜といった可憐なモチーフを。艶やかな漆塗りのチョーカーは大振りで存在感があり、顔の周りを優しい光りと艶で明るく引き立ててくれます。
※チェーンや紐は付け替えることができます(一部アイテムは不可)
ピアス・イヤリング
4,400円(税込)~11,000円(税込)
村上木彫堆朱を身に着けるなら、ピアスやイヤリングといったイヤーアクセサリーから始めるのがいいかもしれません。池野さんが手掛ける村上木彫堆朱のピアス(イヤリング)は、ぜいたくな本堆朱や艶やかな色漆を施したものなど多彩です。
※ピアス・イヤリングは金具を付け替えることができます(一部アイテムは不可)
池野漆工芸
所在地 村上市長井町4-17
電話番号 0254-52-2801
営業時間 10:00~17:00
定休日 不定休
駐車場 4台
公式Instagram
https://www.instagram.com/ikenori121/