これまでとはがらりと趣向を変えて、もっぱら古写真によって街のたたずまいを尋ねてみる。底本は、大正13(1924)年発行の『新潟県肖像録』(元所有:片野安蔵)である。集録地域は新潟県全域におよぶ。
村上市内は、南は坂町から金屋、岩船、瀬波温泉、村上町である。山辺里(さべり)や瀬波、上海府(かみかいふ)は含まれていない。掲載が希望によるものであったためか。紹介する順は上片町から西に向かう。
そこでまず登場するのが、上片町の小田自転車店である。屋根はすでに瓦葺きとなり、ガラス戸が輝いている。雨樋(あまどい)はブリキか。屋根上の看板は、金網を張った上に切り抜いた文字を貼り付けている。
従来の純和風家屋様式から抜けた、進取的な店舗である。店前にたたずむ女性の髪形は、明治37~38(1904~1905)年頃からはやった二百三高地巻(にひゃくさんこうちまき)という形か。日露戦争の激戦地の地名を女性の髪形の名称にするとは、この風俗もまた大正という時代のなせる民衆生活の一面であった。
大場喜代司
『むらかみ商工会議所ニュース』(2018年2月号掲載)村上市史異聞 より