大町の家並みの一情景である。【写真左】2階の格子戸の前に掲げられた看板は、網を張った上に切り抜き文字を貼り付けている。大きく「和洋御菓子」、その上部に「藤ラムネ製造元」、下部に「早撰堂 早川庄次郎」とある。下部右側の文字は判読不能である。電話番号かもしれない。
写真の題名には、「藤澤印サイダ製造元・菓子商・鮮魚問屋」とある。【写真右上】また、工場内の写真には「藤印サイダ」と襟を染め抜いた法被を着た主人らしい人物を中心に、数人の若者と家族であろう2人の少女、幼女を前にした女性が写っている。
小判形の写真は早川庄次郎であろう。それにしても特異な商売で、サイダーの製造と菓子商、加えて鮮魚問屋とはこれいかに。デモクラシーの香りが店先から侵入して、ふらりと巡り、そして軒端からかげろうとともに虚空に消えてゆき……。明治という近代の幕開けを継いだ大正も、すでにもう遠い世である。
大場喜代司
『むらかみ商工会議所ニュース』(2018年9月号掲載)村上市史異聞 より