笹川村(現在の板貝集落)の北を流れる笹川の源頭は、蒲萄山塊が連なる尾根の西面で、桑川とほぼ同じ長さの川である。縄文時代の遺跡が発見され、きわめて精巧に作られた巻貝形土器(重要文化財)が発見されたのは、笹川流れの南端の上山というところである。
笹川流れ
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図の笹川大峠は、現在は板貝峠という名称で、絶頂は海抜666メートル、旧道の西に遊歩道がついている。旧道は図に見るような電光形に切った小径で、その踏み跡が今でも残っている。息を切らしながら前者の踵(きびす)をなめるようにして登ると、急に視界が開け、蒼海の西東に粟島と飛島(山形)の二島を望む。水光(すいこう)*天に接し雄大にして壮快なこと、その渺(びょう)**たる幽冥(ゆうめい)***海の彼方は、海神の御座所・綿津見宮(わたつみのみや)か。
*水光…水の光。水面に反射する光
**渺…水面などが限りなく広がっているさま
***幽冥…死後の世界。あの世
往昔の通行はこの峠径か、磯辺の砂径かのどちらかの路を選ぶしかなかったが、冬期間の荒天の磯辺では、危険きわまりないから、たとえ風雪に吹きまくられても、この笹川峠越えの径をたどった。茜に染まった悠久の海を眼下に見る逍遥は初夏の一興であろう。ただし健脚の人のみ。
大場喜代司
『むらかみ商工会議所ニュース』
(2022年6月号掲載)村上市史異聞 より