瀬波温泉 五泉屋(長谷川旅館)
「長谷川旅館」ともいった五泉屋の正面玄関である。玄関屋根は、わずかに円弧(えんこ)状をなし、繊細で瀟洒(しょうしゃ)な和風である。されど、左下の下見は擬洋風(ぎようふう)で、いかにも大正ロマンの雰囲気を漂わせている。
かてて加えて、この自動車の運転手の装いと風采(ふうさい)がいかにもハイカラ気ではないか。鉄道 中条 村上線の開通は大正3(1914)年11月1日のことであるが、村上駅と瀬波温泉間は、脚元に小さなほこりの渦をつくり、頭上にカラスの嘲(あざけ)りを残しながらの力車か、テクテクにまかせるしかなかった。
そこで、「瀬波自動車株式会社」の設立となったのが大正3年10月のこと。「乗合」と「ハイヤー」の営業で、資本金2万円であった。大正元(1912)年の自動車フォードは4,200円くらいで、乗車料は1里につき13銭、乗合定員は6名であった。写真の自動車がその乗合自動車か、いずれにしても庶民には、山たかみ くもゐに見ゆる 桜花……であった。
ついでに、村上町の電灯は大正2(1913)年4月5日についた。茶の間に一灯のみであった。
大場喜代司
『むらかみ商工会議所ニュース』(2019年4月号掲載)村上市史異聞 より