呉服商 增井六兵衛君
表通りの商店が軒を連ねる一角に、威風辺りを払うがごときの店舗があった。「呉服商」とキャプションにはある。
左端が欠けているため、全体の様子は判然としないが、2階は連子格子(れんじこうし)で、横に連なった板葺きの庇(ひさし)は、今に残る彦根城下の商家か、京都西陣のまち並みを連想させる。軒下の看板は「福助足袋」と読まれようか。
岩船町が大量の魚の水揚げで空前の活況を呈し、商業人口も爆発的に膨れ上がったときの所産であろう。鮮魚加工の女性が朝な夕な工場の往き帰りに足を止めての姿が網膜に残る。
時折去来する鷗(カモメ)の羽ばたきが耳をうち、爽やかな水打ちの音や店先に佇む人の声が聞こえるようだ。店舗内の様子は、不鮮明な写真技術では知る由もないが、数人の女性と子どもらしい姿が写っている。
バブル景気に沸いた岩船町大通りの往時をしのばせる、いち情景である。
大場喜代司
『むらかみ商工会議所ニュース』(2019年7月号掲載)村上市史異聞 より